胃腸が悪くなり弱っていく一方のおっかさんを、どうしても元気にしてやりたい、と思った息子は、意を決して山に行くことにしました。群馬県中之条まで汽車で行き、後はおっかさんをおぶって幾つもの山を越えて何時間も歩きます。ようやく下の方に目指していた宿場町が見えて来ました。四万の病を治すという四万温泉。街道を真っ直ぐ進むと赤い橋が見えて来ます。
着きました、四万温泉「積善館」!

320年の歴史を持つ温泉宿。徳川綱吉の元禄時代から続く湯治の宿です。
医者も薬も殆どなく、病気になったら温泉に毎日浸かって治すしか方法のなかった時代、新潟県との県境にある四万温泉は胃腸の病を治す温泉として有名でした。
左の写真は、明治時代のもの。
車もバスもない当時は、金持ちは人力車、庶民は自ら歩いてきたのです、中之条から。
かなりありますよ。
写真で人力車に乗っている女性は金持ちのお嬢様だということになります。
舗装道路ではないため、人力車と言え、乗り心地が良いとは言えないでしょうが。
そして、母親をおぶっている男性は、自ら母をおぶって歩いて来たとしか考えられないのです。
(積善館に残っている貴重な写真を見せながら、当主の婿である社長さんが説明してくれました)
そして、今回の私。
「どうしても、生きているうちに四万温泉積善館にもう一度行きたい」
という母の願をかなえるべく、両親の運転手として
私も四万温泉に同行。
前橋出身の母は小さい頃、毎夏2~3週間、この積善館で過ごしたのだそうです。
自炊だったようですよ。
(湯治客にとっては、それは普通のこと)
そのおかげか、胃腸が丈夫になり健啖家になった母は、一杯食べて太ってしまったとのこと。
母の肥満の原因は、この積善館らしいです。
そして、この積善館に関しては、もう一つのエピソードがあります。
宮崎駿の「千と千尋の神隠し」。
あらゆるアニメの中で最も好きなのが、この千と千尋。
最高傑作でしょう。
何度も見過ぎて、殆ど暗記しています。
最近は、こちらの話しの方が話題になっていて、問い合わせも多いそうです。
橋を渡った所にある湯屋のモデルの一つがこの積善館だというもの。
実際、宮崎駿は何度も、この積善館に宿泊しているそうです。
社長が直接会って何度も話している、というのだから、
事実なのでしょう。
橋だけでなく、千と千尋で出てくるトンネルや廊下も、そっくりと言えばそっくり。


ただ宮崎駿自身はモデルの館については一切話していません。(さすが)
幾つもの館の記憶が彼の想像力の中で昇華したものがあの湯屋なのでしょう。
さて、この積善館、最早歴史的建造物とも言える昔からの一階の建物の他に、2つの別の建物があり、山の斜面に三層構造となっています。
さすがに一階の建物は、見ている分には良いのですが、宿泊するとなると、相当覚悟が要ります。
狭いし、廊下との間は襖だし、プライバシーも何もありません。昔はそれが当たり前だったそうですが、現代人の感覚では無理。
今は日帰り温泉の客のための休憩所となっているとのこと。
多少ましな部屋もありますが、今でも湯治で何拍もする客のための部屋で、温泉旅館に観光に来る人は、基本2階層目の建物か、3階層目の建物に宿泊することになります。母や最初、どうしても昔ながらの1階の部屋に泊まりたい、とダダをこねていましたが、宿の人の言うことを聞くのが正解でしょう。
3階層目は観光ホテルに馴染んだ客でも喜べる広くきれいな部屋。
眺めも良く、四万温泉と山々が見渡せます。(左上写真)
さて、当然のことながら、当ブログである以上、いきなり温泉でゆったりという訳には行きません。
歩くのです。
両親を残して、一人出発。
宿を出て真っ直ぐ進みます。
蕎麦屋、スナック、パチンコ・スーパーボール・・・・
お約束の温泉街。
昔はおいらんの館もあったそうですよ。
昔は、中之条から越後、苗場に抜ける道でもあったため、
湯治客だけでなく、多くの客が宿場町としても、
この街を通ったとのこと。
落合橋を渡り、
左方向に進みます。
ゆずりは、と呼ばれる温泉街、
というより保養地。
ペンペン草の生えたテニスコートもあります。
若い人たちがテニスに汗を流した時代もあったのでしょうか。
いずれにせよ、江戸や明治の風情とは全く異なります。


川側は新緑の間から渓流や滝が見れ、
清々しい気持ちになります。
クマ出没注意という札あり。
野性の動物の間に無理やり人間が住んでいる、と言った方が妥当なのでしょう。
それに、四万温泉はクマより蛇が有名。
祖父からも、四万温泉でマムシに追いかけられた、とか、
露天風呂に浸かっていたら蛇も湯に入ってきた、とか、
最近では、ニシキヘビ級の大きな蛇が街に出た、とか。
世の中で一番嫌いなモノは蛇という母にとって、
それだけが気がかり。


日向見と呼ばれる一番奥の温泉街に出ます。
重要文化財の日向見薬師堂があります。
その隣には、四万温泉で一番最初に湯が出た、と言われる、
公営の風呂があります。
その横には足湯があり、熟女達が早速楽しんでいます。
さて、ちょっと引き換えし別の方向に進むと、
何やら前方に得体の知れないものが。
とても大きい。
そして場違い。

四万川ダムです。
巨大なコンクリートの塊ですが、
最近「進撃の巨人(諌山創)」にはまっている私には、ダムではなく壁に見え、
その上から超大型巨人が姿を現しそうな気がしてきます。
そして一撃。
ウォール・マリア崩壊・・・・
場違いな妄想に陥っていては、先に進めないので、
また歩き始めます。
落合橋に戻り、今度は温泉街でなく、山の方に向かいます。
水晶山。
昔は本当に水晶が採れたようですよ。
大きな杉が続く山道。
仙人でも出そう。
ふと見上げると、何やら人。
石像。
子供のようです。
(左写真、分かりますか?)
何でこんな所に
唐突に子供の像?
何か悲しいことでもあったのでしょうか。
分かりません。
そして、そこから程なく大きな建物が現れます。
どこかでいつも見ているような気のする建物。
そうです、小学校。
本物の子供の世界。
でも人の気配はありません。
近付いてみましょう。


学校の怪談に出て来そうな校舎。
中之条第三小学校跡です。
校庭は半ば駐車場、半ば放置されています。かつて子供達の歓声で沸き返っていた校庭は、今や、雑草伸び放題。そのうち、ブランコもジャングルジムも鉄棒も朽ち錆びれ、自然の中に取り込まれていくのでしょう。
時計の針が9時過ぎを指しています。
(今は1時過ぎ)
廃校の時の9時から時が止まってしまったのでしょう。
子供が消えていくというのは、何とも寂しいものですよね。
ニッポンもこのまま年老いていくのでしょうか。
かつて小学生がワイワイガヤガヤ通ったと思われる校門への道(左写真Yの字の右側。突き当りが学校)を下ると、そこはまた温泉街。
川沿いの道を浴衣姿の温泉客とすれ違いながら歩きます。


それにしても、きれいな川の色だこと。
これをま近に見ながら露天風呂に入れたら最高でしょうね。
実際、この四万温泉にはそんな宿もあります。
月見橋を渡り、塩の湯温泉所と呼ばれる一番の目抜き通りに出ます。
店店が軒を連ねており、女主人達が元気に話しています。
なかなか活気ありますね。
そして萩橋を渡ると、スタート地点に戻ってきます。
2時間以上のウォーキング。
湿度もあるので、汗びっしょり。
ときたら、次は当然温泉風呂。
そもそも最大の目的はこれですからね。


とはいっても、この積善館、風呂が一杯あり、どれから入って良いのか迷ってしまいます。
最初は、泊まっている最上段にある現代風の風呂。
大きくきれいですが、良くある風呂と露天風呂。
はしごするしかないでしょう。
一番有名なのが、昔からある元禄の湯。湯治のための湯です。
赤い橋の横にあり、まさに積善館を代表する湯。

今までも何回か、写真で見たことがありますが、
実際見ると、やはりびっくり。
何と表現したら良いのでしょう。
どこか別の世界に来てしまったのでしょうか。
左写真の右側の入口扉を開けると、そのまま大浴場。
脱衣場が風呂と一緒になっているため、
突然のタイムスリップ光景。
草津が強い湯だとすると、こちらは柔らかい湯、だとのこと。
言われてみればそんな気がしてきます。
体の芯から温まりますが、私は元々胃腸が丈夫なので、これ以上丈夫になって、
食欲が増えたら、また太ってしまいます。
ほどほどに控えなければなりません。
にもかかわらず、一旦休んで、もう一つの風呂に挑戦。
というのも、別の目的があるからです。
それは、「混浴」。
一階にある岩風呂は
何と混浴なのです。
行かない訳にはいきません。
かつて混浴で面白い体験をした私は、再びハプニングを期待して突入します。
★北川温泉黒根混浴露天風呂ハプニング
★西伊豆平六地蔵混浴露天風呂ハプニング
勢い込んだものの、湯船には誰もいません。
でも、今から入ってくる可能性は否定できません。
それに、仮に女性が入ってくるとしたら、衝撃的なシーンですよ。
混浴風呂の掟として、女性をジロジロ見るな、というものがありますが、湯に浸かっている客から見ると、女性の登場口は、まるで舞台からダンサーが登場するよう。
写真のように、上から階段を降りてくる登場の仕方になるので、
どんな男性であっても、振り向かない訳にはいきません。
女性は間違いなく全員の視線を体に浴びることになるでしょう。
宿にある絵を夢見て、長期戦。
期待に胸は膨らみますが、時間ばかり経過。
辛抱も限界に近づき、遂に降参。
トボトボと一人で更衣室に引き上げます。
岩風呂を後に部屋に引き上げようと歩いていると、
何と、お風呂の道具を手に持った浴衣姿の女性二人がこちらにやってくるではありませんか。
30歳位でしょう。
この先には、部屋はなく、混浴風呂しかありません。
すれ違った私は悩みました。
混浴風呂に戻るべきでしょうか?
でも、それでは女性に見え見えです。
理性と本能の葛藤の結果、理性がかろうじて勝ちました。
しかし、あと数分辛抱出来なかった自分を呪いました。
(馬鹿な私は、翌朝も混浴岩風呂に挑戦しました。
そして最後まで一人湯を楽しみました。)
さて、風呂の後は、勿論夕食。
3つの風呂で脱水症状になった私の体の全細胞にビールが一気にしみわたります。
至福の時です。
そして、温泉で更に胃腸が丈夫になった私は、次から次へと出てくるご馳走を平らげます。
千と千尋の「顔なし」にでもなった気分。
宿特製の吟醸酒も最高!


生きている喜びとは
かくものかは・・・・
酩酊は続きます。
最近、やや不眠気味だった私ですが、今宵ばかりはぐっすり寝てしまいました。
これも温泉の効能なのでしょうか。
翌朝、宿を出発する時、もう一度赤い橋で写真を撮りました。
あんなに「もう一度来たかった」という積善館。
宿願を果たせて本当に喜んでいました。
今生において、もう一度こうやって一緒に写真を撮ることは多分ないのでしょうねえ。
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